危機に立つ日本の医療
中国製餃子に殺虫剤のメタミドホスが混入していた事件を契機に日本の食料自給率が極端に低いこと(39%)が判明,改めて食品自給・食料防衛の重要性が論じられている。巷では海外の食品より割高な国内産の食品に消費者の人気が集まりつつあるという。ところが,これほど安全性に敏感な日本人が,自らの生命に直接影響を及ぼす医薬品や医療機器の国内自給率に無関心なのが不思議でならない。例えば,心臓疾患の治療に不可欠な人工血管,人工弁,ステント,ペースメーカーは,ほぼ100%外国製であることをご存知だろうか。食品の場合,国内農業,漁業がかろうじて維持されているので,コストにさえ目をつぶれば,日本産に切り替えることは可能である。しかし,自給率がほぼゼロといった医療機器の場合,仮に海外製品に問題が発見されたとしても,直ちに日本製に切り替えることはできない。そもそもこうした製品をつくる能力は国内から失われているのだから。類似の機能を持つ代替品を別の国から輸入すればよいのではないかという考えもある。しかし輸入したとしても,商品として販売するには厚生労働省の許可を必要とする。過去の例をみると,承認までに少なくとも数年から10数年かかる。これでは,心臓手術のような緊急事態には到底対応できない。それに体内埋め込み型の医療機器を使用するのは外科医である。彼らは長年使い慣れた医療機器がなくなったら,不慣れな機器を使いこなせるようになるには,それ相応の時間がかかるのは分かりきっている。未熟な医療体制の結果生じるリスクにさらされるのは常に患者である。医療機器,新薬の審査体制を根本的に見直さねばならない。
厚生労働省の抱える矛盾
目の敵にされている厚生労働省にも当然言い分はある。もし国が医薬品の審査を緩和した結果,不測の事故が患者の身に起こった場合,その医療機器を許可した厚生労働省は患者と社会から猛烈なバッシングにさらされることになる。だから国の立場としては,新しい医療機器,薬剤の販売許可には慎重にならざるをえない。審査の規制緩和と安全性の確保はあい矛盾し,同時に満たすことはできないと。しかし,実際そうだろうか。規制しなくてはならない部分と患者と医師の自由裁量にゆだねるべき部分が,ごちゃまぜになっていないだろうか。再生医療を例に取って,この問題を論じてみよう。再生医療は患者の自己細胞を使う場合(自家再生医療)と他人の細胞を使う場合(同種再生医療)がある。日本の場合,自家再生医療のみが認められており,最近製品として承認を受けた培養表皮(ジェイス,ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)も自家再生製品である。ジェイスと全く同じ製法の培養表皮であるエピセル(米国,ジェンザイム社)はすでに15年前に製造承認を受け,推定100,000例以上に使用されたといわれる。その間,培養表皮に起因する合併症の報告はない。それにもかかわらず,日本の厚生労働省はジェイスの製造販売の承認を約9年間認めなかった。もっと早く培養表皮が使用できれば,どれほど多くの熱傷患者の生命が救われたか想像に難くない。米国で多くの臨床実績があり,拒絶反応の懸念もない自家再生製品なら,原則として医師の裁量で行われるべき医療行為と考えるべきである。しかし,同種再生製品は細胞ソースが限定されているのだから,徹底した製品管理,安全性の審査が可能である。これは化学物質や生物製剤を使った製薬産業と同じであり,薬事法に従った臨床試験と製造承認を企業に課せばよいのである。
法律の運用に問題あり
日本の医療機器,新薬に対する規制が世界一厳しいのだろうか。そうではない。基本的には米国のFDAのルールを踏襲しているので,EUもアジアも世界中ほぼ同じである。問題はその運用法にある。医療の実態に即した規制,リスクレベルに対応した規制が行われず,一律に,それも起こりうる最も悲観的な可能性を想定した運用をしてしまえば,新しい医療は生まれようがない。いま行われているわが国の先端医療に対する規制は,小型軽飛行機の操縦に大型ジャンボ機に対する運行規則を当てはめているようなものであり,結果的に軽飛行機の産業は国内から消滅することになる。われわれは中国製毒餃子事件で,国民の安全と健康のためには,多少のコスト負担をしても国内自給率を維持すべきであることを知った。医療の海外依存からも脱却し,国産先端医療を守るための体制づくりが急務とはいえないだろうか。












