かつてない追い風のなかで第7回日本再生医療学会が名古屋市で開催された(2008年3月14~15日,大会長・上田実)。昨年暮れに発表された人工多能性幹細胞(iPS細胞),乳歯幹細胞のニュースのおかげで,当日は2,000人を超える参加者がつめかけ,熱心な討論が繰り広げられた。主催側から見た今回の学会の特徴は,会員外の参加者が多く,会員のそれを上回ったことと,歯科医の参加者が100人以上あったことだ。やはりマスコミなどを通じた「再生医療」関連の報道が,専門外の研究者の関心を高めたことと推測される。
実現までの道は険しい再生医療
演題にも明らかな変化が見られた。このところの再生医療のトレンドはいわゆるティッシュエンジニアリング(組織再生)から,臓器再生に向かっていた。骨,軟骨,皮膚の再生医療は,産業化,製品化のステージにあり,臓器再生が次のターゲットと見なされているようである。当面の目標は,心血管領域,脳中枢神経である。臓器再生は体性幹細胞だけでは臨床応用につながるだけの細胞数が入手できない。やはり万能細胞がなくてはならないというのが学会の共通認識である。そこにiPS細胞が登場し,俄然,臓器再生の現実味が増したというわけである。iPS細胞はES細胞の持つ倫理問題を回避したうえに,ES細胞と同等の万能性を持つ。iPS細胞があれば,臓器再生が一気に進むというシナリオは,科学的な仮説としては正しい。しかしES細胞研究で見られた法的インフラの不備が,研究者の足を引っ張りはしないかという懸念は残る。一方,産業化のステージにあると言われる骨軟骨皮膚の再生医療は,ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの孤軍奮闘でようやく培養表皮が製造販売承認を得た。しかし適応症例は重症熱傷に限られ,保険には収載されていない。これでは再生医療ビジネスは成り立たない。ともあれマスコミの華やかな報道とは裏腹に,依然として再生医療の実現までの道は険しいと言わざるを得ない。こうした悲観的な状況の話ばかりでは夢がないので,筆者の専門領域から,少し希望の持てる話題を提供したい。乳歯幹細胞の話である。再生医療の実現で最も重要な要素は「幹細胞」である。したがって,世界中の研究者が血眼で優れた幹細胞を探している。こうした努力のなかで,間葉系幹細胞,ES細胞,iPS細胞が発見された。そもそも優れた幹細胞とはどのような細胞であろうか?筆者の理解では,(1)安全であること,(2)増殖能が高いこと,(3)分化能が高いこと,(4)採取が容易であること―が挙げられる。こうした条件を,乳歯幹細胞はすべて備えている。(1)の安全性は,あらゆる先端医療の実用化にまず求められる絶対条件である。細胞移植でパーキンソン病は治ったが,脳腫瘍になってしまったというのでは悪い冗談にもならない。この点乳歯幹細胞は自己の細胞であり,ES細胞やiPS細胞のような腫瘍化のリスクはない。次に(2),(3)の増殖能,分化能であるが,これは乳歯幹細胞はES細胞やiPS細胞にはかなわない。しかし,既存の骨髄や脂肪由来の間葉系幹細胞には勝っている。(4)の採取に際しての負担であるが,乳歯は歯の交換期に自然脱落する一種の医療廃棄物であり,この再利用は患者の負担はゼロである。
実現化の活路に乳歯幹細胞
われわれはこうした好条件を備えた乳歯幹細胞を,脳神経の再生や心血管の再生に活用しようと計画している。また乳歯幹細胞は少なくとも親子間の同種移植が可能であることがわかった。子犬の乳歯歯髄より採取した幹細胞を骨芽細胞に分化させ,親犬につくった骨欠損に移植したところ,歯槽骨の再生が見られたのである。また乳歯幹細胞は,骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)の表面マーカーとほぼ同一であり,キャラクターはMSCに限りなく近似している。したがってこの研究を発展させれば,既に確立している各分野のMSCを使った再生医療あるいは今後開発されるであろうMSC再生医療がすべて乳歯幹細胞で実現できることを意味している(図)。また乳歯幹細胞バンクができれば,あらかじめ必要量まで幹細胞を増殖しておき,急性期の心筋梗塞や脳梗塞に使用するレディメイド再生医療ができる。実際,発症直後に体性幹細胞を使おうとしても,患者自身から細胞を採取し,必要量の細胞まで増殖させるには1~2か月がかかり,結果的には細胞移植のタイミングを逸してしまうということがある。乳歯の歯髄という意外なところに優れた幹細胞が存在したというのは,医科,歯科の両分野の研究者にとって幸運であった。この幸運な発見が再生医療の実現化の新たな活路になることを期待したい。













