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進む再生医療 名古屋大学大学院医学系研究教授 上田実

  • ips細胞と国家戦略
  • 毒餃子事件と医療防衛
  • 幹細胞を探せ!
  • 再生医療の突破口
  • 再生医療は永遠の未来医療か

本連載も最終回になった。ここで過去4回の内容をふまえて,近未来の再生医療を予想してみたい。

iPS細胞
iPS細胞研究には依然として追い風が吹くだろう。現在,文部科学省,厚生労働省,経済産業省を中心にiPS細胞研究支援のための特別予算枠が組まれ,多額の研究資金が注がれている。当分はこの傾向が続く。過去にこのような大規模な支援策が国レベルで行われたことはなく,具体的な成果が期待できる。しかし,iPS細胞が臨床応用できるまでに克服すべき課題は少なくない。例えば(1)遺伝子導入にかかわるベクターやがん化(2)機能の正常化(3)分化誘導の困難さ(4)実際の細胞移植後の安全性と有効性|などの技術的問題の解決が必要である。加えて,iPS細胞も全能性を持つことから,ES細胞と同じく生殖細胞の誘導や特定胚にかかわる倫理問題を内包していることを忘れてはならない。さらに実際に臨床に使うとなると,患者ごとのiPS細胞の作製とそれによる細胞治療のコストも莫大なものになると考えられる。仮に一部報道で見られたように海外の企業が先行特許を確保していたとなれば,特許料の支払いのために治療費用がいっそう高くなる恐れがある。iPS細胞はわが国が誇るべき画期的発明である。今後とも可能な限りの研究支援をすべきである。しかし,iPS細胞がすべての問題を解決するわけではない。疾患の重要性,緊急性など再生医療のニーズ全体を見通したうえで,体性幹細胞医療との住み分けを早急に整理する必要があるだろう。

体性幹細胞
乳歯幹細胞に見られるように,従来の骨髄,臍帯血,脂肪組織以外の組織由来の有力な体性幹細胞がこれからも発見されるだろう。そうした幹細胞は,分化増殖能こそ万能細胞に劣るものの,倫理的にも安全性にも問題がない。反面,有効性に疑問を呈する声もあり,体性幹細胞を用いた再生医療研究では,従来の方法より明らかに効果があることを実証できたものだけが生き延びるだろう。一方,培養表皮の製造承認に見られるように,国は体性幹細胞を用いた再生医療は既に実用化技術と見なしており,今後培養表皮に続いて,軟骨や骨といった再生組織の製造承認が進むと考えられる。ただし,わが国の医療費総額が約34兆円を突破し,今なお増加し続けている現状では,こうした製品すべてが保険収載されるかどうかは不透明である。保険が認められなければ,ベンチャー企業は破綻し,この医療技術は立ち消えとなる。保険でカバーすべきか自費治療で患者負担とするか,いずれはっきりとした方針が示されねばならない。

再生医療周辺技術
万能細胞にせよ体性幹細胞にしても,病気になってすぐに細胞が準備できるわけではない。緊急時には,保存してあった他家(同種)の細胞を使い急場をしのぎ,その間にあらかじめバンクに貯蔵してあった自己の幹細胞を増やし,根治治療に持っていくというシナリオが現実的である。ここでは幹細胞の安全確実な保存と輸送方法が不可欠である。現に,同種再生医療は既に欧米で実用化されており,一定の効果があるようだ。しかし,わが国では基礎研究ですら盛んとはいえない。その理由は,研究したとしてもわが国では実用化できる可能性は限りなくゼロに近く,やるだけ無駄だ,という空気が研究者にあるからだ。一方,幹細胞バンクは骨髄,臍帯バンクがあり実績をあげていて,最近,乳歯バンクが設立された。これに対してアメリカでは,幹細胞のバンキング事業が非常に盛んで,あらゆる種類の幹細胞バンクがビジネスベースで設立されている。いわゆる"biological insurance"の考え方である。この風潮に対してニューヨークタイムス(2008年2月29日付)は,「確実に病気を治せるかが不明な幹細胞の貯蔵をお金を取って行うのは問題だ」と指摘している。現にアメリカの歯髄幹細胞バンクのHPを見る限り,具体的な出口(治療可能な疾患)が不明確であり,それを実証するデータもない。こうしたビジネスが成り立つのは,夢を買うことに慣れているアメリカだからかもしれない。いずれにせよ,再生医療が本格普及するには,幹細胞の培養,管理技術あるいは長期にわたる保存,輸送などの周辺技術が必要になるだろう。この分野は比較的わが国の強い分野であり,案外世界と勝負するのによい舞台になるかもしれない。

世界に押し出そう
連載第2回の文章で,国内では基礎研究を,臨床研究と実用化は海外で,と書いた。このことはあながち荒唐無稽ではない。特に再生医療のような先端医療は既にルールが確立し,社会的にも認められている国,例えばアメリカや韓国,シンガポール,ドバイなどに,自前の技術シーズを持ち込み,日本人の手によって実用化をするという考え方も悪くない。日本人の研究能力,技術力は世界トップクラスであり,有力なパートナーさえ見つかれば十分勝算はある。再生医療を永遠の未来医療としないためにも,しがらみと規制で身動きの取れなくなったわが国の先端医療研究者が,日本以外の国で大きな成果を上げたとき,本当の意味での改革が起こるような気がするのだが。



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