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歯科医療の隙間と周辺 山形大学名誉教授 吉沢信夫

  • 口腔と全身をどう捉えるか
  • 歯科医療の拡大と他領域とのあつれき
  • チーム医療と条理
  • インプラントと顎(歯槽)堤形成術(その1)
  • インプラントと顎(歯槽)堤形成術(その2)
  • 歯科理工学と医工学
  • モニタリングと看護
  • 障害者歯科からの問題提起
  • 歯科麻酔と救命救急
  • 医療におけるコミュニケーション
  • 臨床研修必修化で拡大した医歯間格差
  • わが国の医療と歯科医師過剰論

歯科医師の臨床研修制度は,医師に遅れること2年後の平成18年から必修化された。歯科の場合,「全人的医療の理解」を掲げながらプログラム編成上で最大の難問となったのは,研修歯医の受け皿(研修施設)となる医療機関のなかに,「総合病院(歯科口腔外科)」における募集人数が,医師とは異なりきわめて少ない点であった。その結果,歯科大学病院ならびに歯科診療所に,研修施設としての役割を大きく依存してしまったのは,やむを得ない成り行きである。

ローテーションの意味の相違
必修化された臨床研修制度は医師の場合,卒後に内科,外科,麻酔科,救急部などを2年かけて履修する。その後に専門となる診療科(眼科,耳鼻科など)に進むことになる。この制度は地方の医師不足,特に上記必修科目以外の小児科や産婦人科などの医師不足を招いた原因とされたが,充実したプログラムで研修した若い医師の2年後における総合的臨床技能は,従来に比べて格段に向上したと言われる。その理由は,医学部を卒業して国試合格直後に眼科や耳鼻科に入局する,いわゆるストレート方式の時代は,各大学の医局主導の"見習い"に依存し,悪く言えば"専門バカ"養成の温床となっていたからであった。すなわち,同じ"医師"でも,診療科によって大幅にバラツキのある医療者が養成されていた。それが大学病院を含めて,全く変貌したのである。学生時代は,病院実習といってもほとんど単なる見学に終わっていたのが,研修医となってからは内科,外科主体のon the job trainingで,ベッドサイドをはじめとする現場の訓練が圧倒的に多くなった。卒後の重要な2年間のローテーションで,全人的医療と救急対応にかなりの自信を持つに至った研修医たちは,3年目以降の後期臨床研修において,以前とは様変わりした広い視野から自分の将来を決めるようになったのである。すなわち新しい眼科,耳鼻科,皮膚科などの医師は,全人的医療とはほど遠い旧来の"蛸壺医者"コースからようやく脱出したと言ってよい。この結果は卒前教育にも影響を与え,講座制が事実上撤廃され,PBLチュートリアルシステムなどを大幅に導入する大学が増加している。

歯科医師のローテーション
これに対して歯科の場合は,卒前はともかく,臨床研修のローテーションに内科や外科が入るわけではない。まして救急医療の場の設定は,プログラム上きわめて困難である。どうしてもプログラムの主体は,臨床3科の保存,口腔外科,補綴あるいはそれらを一括した,いわゆる「総合歯科診療」となる。「総合歯科診療」自体は,一歩前進したと言えるであろう。さらに,卒前教育のカリキュラムにおいても,臨床研修の結果が遡及していく傾向を認めている。しかし,大幅に前進した医師の場合に比べると,残念ながら格差は以前よりも拡大していると言わざるを得ない。

卒前教育の改革が歯科の将来を決める
少子化に加えて歯科医師数の"過剰"から,歯科大学の淘汰が懸念されている。この際,入学定員削減といった対応は,本質的解決につながりそうもない。この点からも,「周辺」への進展が求められるのではないか。次回に詳述するが,米(コメ)余りと歯科医師過剰が指摘されてから,既に10年以上が経過した。筆者があらためて強調したい具体的解決策はまず,「卒前教育の大幅な改革」による歯科大学の体質増強である。そして,医療はもちろん介護福祉などに,歯科の守備範囲の拡大を図らねばならない。歯科医療の壁を高く,さらに厚くして,周辺への進出,交流を妨げているのは何であるのかと洞察したとき,現体制維持願望こそが歯科全体の萎縮に帰結し,社会的評価の低落を招いているのではないかと,危惧せざるを得ない。10年といえば,決して短い時間ではなかったはずである。長期的戦略の構築は即効性を期待できないが,医療においては短期決戦での成果は困難であることから,所詮着実に持続する活動が必要なことは確かであろう。



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