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歯科医療の隙間と周辺 山形大学名誉教授 吉沢信夫

  • 口腔と全身をどう捉えるか
  • 歯科医療の拡大と他領域とのあつれき
  • チーム医療と条理
  • インプラントと顎(歯槽)堤形成術(その1)
  • インプラントと顎(歯槽)堤形成術(その2)
  • 歯科理工学と医工学
  • モニタリングと看護
  • 障害者歯科からの問題提起
  • 歯科麻酔と救命救急
  • 医療におけるコミュニケーション
  • 臨床研修必修化で拡大した医歯間格差
  • わが国の医療と歯科医師過剰論

不謹慎だと言われる非難を覚悟のうえで,「まとめ」に入る。これまでの連載のなかで私が提案してきた内容は一見迂遠な話とか,またある場合は荒唐無稽と受け止められたかもしれない。それでも今回あえて強調したいのは,歯科医師"過剰"論が「コメ余り」論と似ている点である。

コメは余っているが食料は不足
日本は,世界中から多種多量の食料を輸入している。自給率は恐ろしく低い。その一方,唯一コメだけが例外である。だが,世界の食料のなかでも特に穀物は,需給バランスが崩れて供給不足に向かうことから,価格も高騰し続けることは間違いないであろう。品質上,危ないものさえ出回っていることも周知の通りである。いずれにせよ,歯科医療もコメ(水稲)も,あえて言えば国策上必要,かつ重要であることは論をまたない。これらの需給面におけるミスマッチを解決するために,どちらも単純に減らせばよい,とは言い難い。食料も医療もその質を担保するとともに,必要十分な量が確保されるかどうかは,国民に対する最低限のセーフティネットの課題だと言える。万事多様化の今日,食材としてのコメをそのまま出しても拡販にはつながらない。新たな利用の開発,コメ以外の作物への転作,輸出などが求められている。コメを現在の歯科医師や歯科医療に置き換えてみた場合,今のままでは需要の拡大を見込めないことが分かるであろう。ならば,現状からの転換を図らなければならない。

卒前教育の大幅改革
医師や歯科医師の臨床研修制度は,さらなる質の向上をめざしてスタートした。歯科大学の6年「完成」教育は既に否定されており,その不足分を卒後の臨床研修のみに求めても,歯科医師の社会的役割の拡大は望めない。どうしてもまず,卒前教育の大幅な変革が必要である。

歯科医師法の改正
視点を変え,食料ならびに医療福祉の総量について考えてみると,世界のみならず日本においても,それらの総量自体が過剰だと言うわけではない。食料も医療福祉もそれぞれの中仕切りを低くして,融合発展的な再構築が必要となる。農業政策は単なる食料の問題ではなく,国土保全,環境整備,教育福祉,高齢者対策のためにも再評価されなければならない。同様に,歯科医療関係者はもっと幅広い活動ができるよう,自身の覚悟とともに長期的戦略で社会と政治行政を動かし,法の改正,整備をめざすべきである。社会貢献に資するポイントは,ここにあると考える。総務省の家計調査分類における誤った二元論,すなわち「医科医療費は必需的,歯科医療費は選択的支出」なるものを甘受するわけにはいかない。

歯科発展の条件
一般的に医療の場で起こりがちな,安心・安全の大義名分に名を借りた職種間の争いは,所詮縄張り争い的利己主義で,国民や患者にとって何の益にもならない場合が多い。社会の医療需要を見据えた職種の質と量の調整は,本来行政や政治が果たすべき役割である。歯科医を眼科医,耳鼻科医,皮膚科医などと名実ともに同等にするという理念は,むしろ常識的かつ現実的ではなかろうか。それを拒否する歯科医は,論外である。しかし,そうした歯科医の存在により「新しい歯科医が,"家庭医"になれる道を開く」という一見至極当然とも言える目標の実現が,事実上は至難の業であることも明白である。この長期的戦略は実質的に見ても歴史的大事業であり,bunker mentality(穴熊思想,主義)からの脱出となるのである。歯科医療の発展を妨害する反対勢力は,たしかに隣接の医療に携わる分野に存在するであろう。しかし筆者は,歯科界内部に潜在するバリアのほうが問題ではないかと懸念している。そうした思いから,あえて思い切った提案を述べさせてもらった。1年もの間,本欄におつきあいいただいた読者諸氏に感謝申し上げます。



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