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歯科医療の隙間と周辺 山形大学名誉教授 吉沢信夫

  • 口腔と全身をどう捉えるか
  • 歯科医療の拡大と他領域とのあつれき
  • チーム医療と条理
  • インプラントと顎(歯槽)堤形成術(その1)
  • インプラントと顎(歯槽)堤形成術(その2)
  • 歯科理工学と医工学
  • モニタリングと看護
  • 障害者歯科からの問題提起
  • 歯科麻酔と救命救急
  • 医療におけるコミュニケーション
  • 臨床研修必修化で拡大した医歯間格差
  • わが国の医療と歯科医師過剰論

日常の診療でともすれば忘れられがちになるが,歯の欠損症例に対しても一般的な問診,診察,検査を行ったのちに「診断」が必要である。多くは純然たる補綴処置にとどまるが,なかには補綴前外科の要否について検討を必要とする場合がある。すなわち歯槽骨整形手術ですむのか,あるいは積極的に歯槽堤形成術やインプラントまで実施するのかについて選択を迫られる症例もある。患者の希望を考慮することはもちろんだが,あくまでも総合的に十分な検討を行い,判断すべきであろう。インプラントを例に挙げると,最初から特定のインプラントありき,という姿勢で診療を行うことは,少なくもEBMとは相容れないと思われる。条理をきわめ,患者との対話から生じたNBM(Narrative Based Medicine)に基づいて判断を下せば,少なくも患者や社会の非難を浴びることにはならないと考える。

診断の重要性
かつての歯科医療の最大の欠陥は,診断学の未熟さであった。ほとんどの分野において,治療行為が優先されていたことは否定できない。患者の訴えを最後まで聞かないうちに口を開かせ,患歯を探し,治療を開始するといった状態だった。一方,20世紀中頃以降の眼科はred eyeからwhite eyeへ,つまり感染症から視覚器全体へ,診療の主体を転換した。これにより,眼科が社会からの評価を高めた歴史を持つ点で歯科とは対照的である。歯科補綴の専門家で,一般の評価も高かった某教授の話に驚いたことがある。それは,「補綴に診断はない。そのかわりに設計がある」というものであった。さすがに現代では,これを肯定する補綴の専門家は少ないだろう。ならば,欠損補綴症例に対する医療面接(問診など)は別として,診察,検査をどのように行い,診断を下していくのか考えてみたい。

診察の要点
診察の主な手法は視診,触診,打診である。骨隆起,鋭縁の有無とその大きさや位置,形状,筋肉の動態などをチェックする。最も重要なポイントは,歯槽部の非可動粘膜の形状と顎堤の高径である。下顎の場合は下顎下縁から歯槽頂までの距離を求めるが,それには口腔内外の双合診すなわち一方の手指を口腔内に,他方の手指を下顎下縁に同時に置き,触診する。これをノギスなどの機器を用いて測定すれば,診察ではなく「検査」となる(安川和夫,口科誌39巻3号,744-764, 1990)。この結果得られた絶対高径が17mm以上であれば,骨移植などを要しない相対的歯槽堤形成術が奏功する。

進歩した検査法
最近の画像診断の進歩は,歯科臨床に特筆すべき影響を与えた。従来のパノラマX線CTに歯科用のソフトウエアを搭載して,3次元の画像処理を行ったり,顎の詳細な断面画像を任意に観察できる。そのほか顎関節,下顎管および上顎洞の境界ラインを描画する機能を付加し,手術のナビゲーションにも資する画期的な検査法が開発されている。これらの検査システムはインプラントの普及とともに発展してきたが,埋伏智歯と下顎管,あるいは臼歯と上顎洞との関係を精査するうえでも有用である。ただし,本システムはかなり高額であるため,歯学部以外の病院に導入することは難しい。そのため,東京都に開設された「口腔画像診断センター」のような施設の成否が,歯科医療の将来を左右するのではなかろうか。

インプラントに補綴前外科ガイドラインを
補綴前外科に限ったことではないが,手術はあくまでも治療法の1つで,その術式も多種多様である。インプラントの埋入を前提とした診療においては,綿密な診察と検査を踏まえたうえで,禁忌症と適応症を厳格に鑑別しなければならない。したがって,骨移植や上顎洞底挙上術はもちろんのこと,顔面骨や歯槽骨に対する下部構造(人工歯根)の植立に至るまで,明解なガイドラインの策定が早急に望まれる。インプラントは,歯科医療全体の大切な新生児とも言える。その将来が確かなものになるよう,関係者は慎重に育成すべきであろう。



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