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歯科再生医療の今 東京医科歯科大学名誉教授 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所・客員教授 石川烈

  • 歯周再生治療への挑戦
  • 歯周病の原因菌の解明
  • 効果的な抗菌薬療法の試み
  • 歯周病と全身疾患とのかかわり
  • 組織再生への歴史的歩み
  • 人工材料による骨移植材
  • 組織再生誘導法の開発
  • GTRから成長因子へ
  • セメント質再生への研究
  • FGFによる歯周組織再生
  • 細胞を用いた歯周組織再生療法
  • 歯根膜細胞シートを用いた再生療法

初めに
高齢社会を迎えている現在,人々は健康でいられることが最も大切であると認識しつつある。2000年より日本で進められている「健康日本21」政策においても,心身ともに自立して活動的な状態で生きられる期間(健康寿命)を延ばし,生活の質(QOL)を向上させることが基本的な目標になっている。この目標を実現させるために,大目標では早死を減らし,高齢者の障害を減らす結果を出そうと試みている。そのためには,中目標である"疾患の予防"として癌や脳卒中,心疾患,自殺をなくす努力が挙げられている。その実現方法として,これらを引き起こす危険状態の改善や予防が必要とされ,それらには肥満,高血圧,糖尿病とともに歯周病が取り上げられている。これまでの医療政策のなかで,全身の健康維持に口腔疾患が影響すると明記されたのは初めてのことである。

日米の高齢者の残存歯数に大きな差
残念なことに,私ども日本人の口腔疾患は世界のなかで比べてみると,決してよい状態とは言えない。例えば,世界保健機構(WHO)でデータバンクとなっているCommunity Periodontal Index(CPI)を見ても,日本は先進国には程遠い状態にある。私も厚生労働省から出されている歯科実態調査報告書とJournal of Periodontologyで出版された米国のデータを組み合わせて見たとき,20歳代から50歳までの歯の喪失率はほぼ同じであったが,その後,日米では大きく差が出て,日本人は多くの人々が人生の後半に歯を失っている。大まかに言うと,日本人の残存歯数は60歳で平均16歯,70歳で8歯,80歳で4~6歯であった。「8020」運動が,厚生省内につくられた成人歯科対策委員会で提唱されていたのが平成元年であり,その後の経過では年々歯の残存率は向上する傾向を見せているが,まだまだ8020には程遠い状態である。人々が生涯自分の歯で過ごすことは夢であろうか。私は決して単なる夢とは思っていない。この大きな夢に向かって歯科医療政策や予防法,処置法をつくり上げることが大切であると考えている。以前に読んだ,米国の歯科専門誌では,もし国民が自分の歯をすべて保ち,よい状態を保とうとすると,現在の1.5倍の歯科医師がいてもその需要が満たされない,と述べられていた。人々が口腔衛生状態により関心を持ち,よくブラッシングをすると,このような状態が解消すると考えるのは早計である。現在,歯周疾患の病因は多因子性の疾患として考えられている。ここでは日本においての具体的な解決策は述べないが,1つは人々の口腔衛生への関心を高めることと,他方は歯科医療サイドが正しい歯周治療を行うこと,行政サイドからは正しい治療を行ったとき,正当な報酬を保証するような政策が不可欠であろう。さて,ここでやっと本稿の本題に入りたい。

歯科医療の夢の実現へ向けて
本題は,歯周再生療法についてである。これまでの歯周治療では原因的因子であるプラークの除去,歯肉縁上,縁下の歯石除去,ポケット掻爬術,深いポケットではフラップ手術などの手術治療が行われてきた。この処置によって多くの場合,歯周炎を食い止め,それ以上の進行を阻止することが可能となった。しかし,中程度や重症の歯周炎では,失われた歯槽骨や歯周組織をもとの健康な状態にするのはきわめて難しかった。かつて,北欧の著名な歯周病学者のRamfjord教授は,歯周外科後の長い接合上皮による治癒はやむをえないことであり,これをもってよしとすべきと述べられた。すなわち,修復は可能かもしれないが,再生は難しいと考えられていた。しかし歯周病の分野では,この考えをものともしないで,再生治療へと敢然と挑戦が始まった。この歴史をひも解きながら,歯科医療の夢である歯周組織の再生治療の変遷について,次回から述べたい。



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