このシリーズも今回で最終回である。この項で,現在,私どもが取り組んでいる歯根膜シートを用いた新しい歯周組織再生療法の開発について述べたい。
細胞をシート状にし臨床応用
温度応答性培養皿を使用することで温度を変化させるだけで細胞をシート状に回収できる技術が,東京女子医科大学の岡野光夫教授らにより開発された。この技術は,生体のさまざまな組織の再生に応用されている。例えば,口腔上皮を角膜に応用して失明状態からの再生に成功し,臨床応用まで用いられることが,東北大学の西田幸二教授らによりNew England Journal of Medicineに報告された。また,東京女子医科大学の大橋一夫准教授は,肝細胞をシート状にして皮膚下に移植し,肝機能のいくつかの機能回復に成功したことが最近Nature Medicineに発表された。また,同大学では現在,心筋組織の再生や食道の再建手術に取り組んでおり,この技術が再生医療で有効になろうとしている。
歯根膜の再生に成功
私どもも智歯や矯正などで不要となった歯から得られる歯根膜を培養し,それを歯周病により失った部分に移植し再生させようと試みている。私どもの長谷川らは,ヒトの歯根膜シートをつくり,このシートから得た細胞ではインテグリンやフィブロネクチンなど細胞外基質が温存されており,細胞の接着や増殖,シグナル伝達に関与する蛋白質を維持した状態で移植できることで,組織再生にとりわけ有利に働くことを見出した。このシートを免疫の問題が起こらないヌードラットの歯面に移植し,歯根膜が再生することを報告した。
セメント質の再生も可能に
次いで,秋月らがイヌを用いて裂開状の欠損をつくり,このシートとそれを補強するヒアロルン酸担体を用いて欠損部に移植したところ,多くの例で歯周組織が再生することを報告した。しかしながら,歯根膜の再生に比べてセメント質の再生があまりに明瞭でなかった。そこで,大学院生のマラゴメスらがこの歯根膜細胞を培養する際,培地として石灰化培地を用いることで歯根膜シートの一部で石灰化過程が進むことを認め,このシートをヌードラットの皮下に入れた象牙質の板上に重層させて移植させたところ,明らかに層板状の石灰化したセメント質様構造と,そこから直角に伸び出した歯根膜線維が形成されることを見出した。このことはある程度予想されたことであった。というのは,当時,大学院生であった長友らがヒトから得られた歯根膜細胞についてその幹細胞様の性質について追究し,この細胞を石灰化培地で培養すると約20%の細胞が石灰化を起こすことを見出したからである。幹細胞がこの歯根膜細胞中に含まれることは2004年にNIHのSeoらによってLancetに報告された。現在,ポスドクとして研究している矢代らは,石灰化培地で培養した細胞シートをヌードラットの臼歯歯面を削り取った面に移植したところ,セメント質と歯根膜の再生を見事に再現させた。さらに,移植した歯根膜細胞が確かにそこで再生に働いていることを確証するために,福井らは東京医科歯科大学の秋吉一成教授の考え出された量子ドットナノゲルを細胞に取り込ませ,これが長期にわたって細胞に取り込まれトレーサーになることを確認し,岩田らはこれをラットに移植して,そこで長期間移植部に生き続けていることを見出している。
実用化も近い歯周組織再生
このように,歯根膜シートによる歯根膜組織の再生治療が実用化できることは明らかである。東京医科歯科大学においてすでに倫理委員会でこの臨床応用は承認され,ごく最近Cell Processing Center もほぼ完成した。同大学の和泉雄一教授とともに,この歯根膜シートによる歯周組織再生技術を実用化し,臨床応用して日本のみならず世界中の歯周病で苦しむ多くの人々を健常に回復させ,人々が生涯自分の歯で過ごせる夢の実現に近づきたいと努力しているところである。



















