耐性菌の問題で難しい抗菌薬療法
前回述べたように,歯周病の原因として歯肉縁上プラークはもとより,歯肉縁下プラークが関与していることが明らかになった。歯肉縁下プラークの約75%はグラム陰性嫌気性桿菌が占めており,そのなかでもP.gingivalis(P.g.菌)やA.actinomycetemcomitans菌(A.a.菌)が重要な原因菌として知られるようになり,当然の成り行きとして抗菌薬を歯周治療に用いようと試みられた。なかでも,A.a.菌が関与すると思われる難治性歯周炎(refractory periodontitis)と当時呼ばれた病態や,早期発症型歯周炎(early onset periodontitis)について,日本では現在でも承認されていないアモキシシリンとメトロニダゾールの併用療法が欧米では試みられ,一定の効果が認められた。しかし,多くの歯周炎において漫然とした全身投与による抗菌薬療法は,真に必要な感染症での治療の際に効果が上がらなくなることを避け,これ以上耐性菌をつくらないためなどの理由により,歯周治療では行われていない。
ドラッグデリバリーシステムの開発
日本で強く進められたのは,抗菌薬の局所療法であった。ポケット内に単に抗菌薬を入れても歯肉溝滲出液に押し流されて効果が上がらなかった。そこで,局所に長く留まるようなドラッグデリバリーシステムが開発され,塩酸ミノサイクリンを含むゲルがつくられ,現在まで用いられている。ペリオクリンで代表されるこの薬剤の投与により,歯周治療で一定の効果が認められている。
効果的な抗菌薬療法にはバイオフィルムの除去が必要
このように抗菌薬の役割が明確になってきたが,それと同時に歯肉縁下プラークの治療方法に関しても多くのことが明らかにされた。その1つとして,歯肉縁下プラークはバイオフィルムと呼ばれるグリコカリックス(菌体外多糖)に包まれた被膜状の層となるので,白血球による貪食やIgG抗体に強い抵抗性を示し,抗菌薬では通常必要濃度の100倍ぐらいの高濃度にしないとその除去に効果が認められないことである。その結果,ポケット内の歯周病原性細菌を除くためには,キュレットや超音波スケーラーなどで物理的にバイオフィルムを破壊した後に抗菌薬を用いる方法が,現在では適用されている。
内毒素の除去に重要なルートプレーニング
歯周治療で大切なスケーリング・ルートプレーニングについても,従来は上下顎3分の1顎に分けて1か所ずつ順々に処置していく方法が採られていたが,1995年にQuirynenらにより,このような時間をかけた処置をすると,病原性細菌が感染部位から治療した部位に移動し,真の治癒が得られないとの観点から,全顎のスケーリング・ルートプレーニングを24時間以内に,2回以内の処置で一気に治療を行う方法が提唱された。現在多くの追試が行われ,私どもでも香港大学でこの研究をしていたDr.Koshyが研究を続け,この方法の有効性を示した報告をしている。間もなく,メタアナリシスによりこの方法の効果が発表されるはずである。ポケット内の問題として,もう1つ大切なことがある。歯科医師や歯科衛生士が歯肉縁下歯石を上手に除去しても,これだけでは歯周組織の治癒は起こらずポケットが再発してしまう。それは長期にわたってグラム陰性菌がポケットに留まっているうちに,それらの細菌から出されるリポポリサッカライド(LPS)あるいは内毒素と呼ばれる成分がセメント質に入り込み,この毒性から上皮とセメント質の接着が起こらないためである。
スケーラーの研磨により歯周病の治療に差
以前,内毒素は深くセメント質に浸透すると考えられていたが,現在ではそれほど深くはなく,よく研磨されたスケーラーで1回表面を削る(約20μm)程度で除去できることが示されている。ルートプレーニングを行う意味は,ポケット内のセメント質からこの内毒素を取り除き,セメント質とポケット上皮を接着させ,可能であれば結合組織の付着まで期待できる状況に持っていくことである。同じ処置を行っても,よく研磨されたスケーラーでルートプレーニングした場合と切れないスケーラーで行った場合では,歯周治療に際しても大きく治癒に差が出てくることは明白である。



















