インプラント療法における"侵襲"という言葉について整理してみましょう。顎骨組織に支持を求めるインプラント療法にあっては,外科処置は不可避であり,一般的に侵襲はこの観点でのみ重視されています。しかしながら,確立されたオッセオインテグレーションを長年月にわたって持続させるためには,補綴学的ならびにアフターケアの観点からの侵襲も重視しなければなりません。
外科術式における最小限の侵襲
適用されるフィクスチャーの数が少ないほど,組織に与える侵襲は少なくて済みます。Branemarkは以前から,あまり多くのフィクスチャーは必要ないと主張してきました。それを臨床に具現化したMal´oはAll-on-4を提唱し,その治療法は優れた成績を収めています。ただし,その治療法は4本すべてのフィクスチャーがオッセオインテグレーションを示したということが前提での治療法であることを忘れないでください。手術の際の侵襲については,バーの回転数について語られることが多いようですが,それより重要なこととして,器具類の清潔さが挙げられます。従来の除去療法で求められている以上に,細菌だけでなく異種蛋白などの残留物が残存しない状態にしておく必要があります。さらに,術直前に徹底した口腔内のプロフェッショナル・クリーニングを行っておくことは常識です。近年,術後疼痛,腫脹などがほとんど認められないなどの点が好まれてフラップレスの埋入手術が注目を浴びていますが,厳密に考えるならばその適応症はかなり限られます。丁寧な手術を心がけるならば,従来の弁の形成を行う術式でも,インプラント手術に伴う疼痛はきわめて軽微です。疼痛が何日間も治まらない主たる原因は,感染か骨組織に対する過熱が考えられます。エンジンの回転数に関しては,Branemarkらは毎分2,000回転を上限としていましたが,今日では当時より長く直径も大きなバーが使われることから,多くのシステムで毎分800回転程度を推奨しています。しかし,筆者はバー先端が予定埋入深度に近づいたときと,フィクスチャーが直接接する骨壁を形成するときには,毎分200回転以下に回転数を下げています。ただし,バーの直径が大きいほど,また回転数が低いほどバーに振動が発生しやすくなり,骨質によってはフィクスチャーの初期固定を弱めることにもなりえますので,ハンドピースを把持する手の反対の手の指先をコントラヘッドに添えることにより,振動を減らしています。冷却には生理食塩水を使いますが,本当にバーが冷却されているのか検証してください。サージカル・ガイドを用いる場合には,コントラヘッドに固定されたノズルからの注水では,周辺は濡れるものの,冷却が不十分なケースがあります。そのような場合には,オリジナルの外部注水法を見直すべきではないでしょうか。
補綴処置における最小限の侵襲
インプラント療法が,10年,20年あるいはそれ以上の単位で安定して機能するためには,力のコントロールがきわめて大切であると信じています。歯根膜を持たないフィクスチャーの上部構造には,従前の天然歯を対象とした補綴物よりもはるかに高い精度と強度を与えなくてはなりません。例えば,複数のインプラント支台を連結する構造の場合,不適合があればインプラント周縁骨に応力が集中し,その力は継続します。その応力集中に対して,骨吸収が認められますが,ブラキシズムなどの悪習癖や咬合調整の不備によっても,予想外の吸収が認められます。また,少数歯修復の場合においても,小さな被圧変位量を考慮した咬合調整と残存歯への管理が必要になるでしょう。
アフターケアに関連した最小限の侵襲
多少の汚れに対してインプラントは高い抵抗性を示すことが多くの経験からわかっていますが,口腔清掃の必要性は言うまでもありません。修復物に接する部分の角化組織を残す,あるいは作り上げることによって,汚れによる細菌学的な侵襲,および患者自身のメインテナンスによる侵襲を少なくできます。さらに,将来の口腔内の変化に対し,最小限の対処法で済むような治療を行うことにより,組織に対してではなく患者への侵襲を減らせます。












