治療を厳密に行おうとするほど,治療に用いる周辺機器への依存度が高くなるという傾向があります。そのため,術者が機器の取り扱いに精通していないために正しく使用できていない,あるいは機器が経年的な性能低下により所期の機能を発揮できていないなどの場合には,大きな失敗に結び付くことがあります。特に,直接目に見えないものが対象となる場合,注意を要します。治療結果に及ぼすものとして,ハードウェアとしての周辺機器は無論重要ですが,それと同等以上にソフトウェアとしての人的因子を忘れないでください。
X線写真撮影装置
インプラント療法における治療計画の立案に際し,X線写真撮影装置は不可欠であり,かつ高い精度が求められます。信頼性が乏しい,あるいは判読が困難なX線画像を用いた場合,不可逆的で重篤な問題を引き起こすことになりかねません。その点に関しては,本コラムの第2回で触れています。
滅菌用機器類
医療用器具の滅菌の必要性については今や常識ですが,思わぬ落とし穴があることがあります。たとえ器具を徹底的に洗浄して,正しく包装したうえでオートクレーブに格納したとしても,真空状態にならない,十分に圧が上がらない,あるいは温度が上昇しない場合にはどうでしょうか。滅菌用機器の所期の機能が発揮されず,滅菌が行われません。歯科用として販売されているオートクレーブでは,時としてこのようなものも存在することが報告されています。したがって,滅菌が確実に行われたかどうかを確認するためのインディケーターを定期的に用いる必要があります。また,新しいスタッフが入ってきた場合には滅菌手順を教育しますが,その際の伝達が正しく行われなければ,滅菌処理を行ったとしても菌は生存する可能性があります。このため,それ以降の外科処置がいかに制腐的に行われようとも,感染の危険性は高まります。さらに,人的因子に関して言うと,適切な滅菌処置が施されたものであっても,滅菌バッグを使い回す,湿潤状態で保管する,あるいは使用期限を守らないなど,その後の保管あるいは取り扱いに不備があれば,容易に汚染されます。
手術用滅菌水手洗い機
外科処置前の手洗いの注意に関しては,従来とは異なってきています。以前は,医療用フィルターと紫外線管が装着された滅菌水が出る手洗い機を用いて,時間をかけてブラッシングを行うことが推奨されてきました。しかし,滅菌水を使うから手洗いはそこそこで大丈夫といった,間違った考え方をする歯科医師がいることも事実です。一方で,上水道の管理が徹底している先進国では,水道水による手洗いで十分であることも知られており,滅菌水が出る手洗い機は不要との考え方が主流となっています。さらに,以前のような丹念なブラッシングは完全に否定され,手指用殺菌消毒剤による適切なスクラッビング法とそれに続くアルコールの擦り込みが推奨されています。滅菌水の出る手洗い機は必要なくとも,肩口の高さの蛇口から出る水で常に指先をうえに上げた状態で手洗いを行うという,基本的な考え方は変わりません。したがって,ここでも人的因子が大切であることを忘れないで下さい。従来の一般診療で問題ないのだから,インプラントでもこの程度でよいといった安易な考え方をしてはなりません。
コンピュータ支援手術用機器
インプラント療法は,適切な治療を行うことで,生活の質の向上に長年寄与できることが知られています。私は,適切な治療を実施するための次の段階として,コンピュータによりガイドされるインプラント手術が一般化すると確信しています。CTデータを基に立案,製作されたサージカル・ガイドあるいは画面上の情報に従って,インプラント本体の埋入位置や角度などが規制されます。しかし,実際の形成は歯科医師が行うわけですから,組織に対していかに制腐的で優しい形成ができるかといった人的因子が絡んできます。方法によっては形成の誤差が最大で0.3mmの範囲内に収まるとされていますが,術者の注意不足から顎の動きを抑制する装置が変位したことに気付かず,そのまま形成を進め,神経に損傷を与えたという経験があります。これは,いかに優れたハードウエアが存在しようとも,ソフトウエアがそれに伴わなければ,十分な機能を発揮することができないという一例です。












