業者の甘い言葉を妄信していないか?
インプラント療法がきわめて有効な治療法の一つの選択肢であることは,歯科医師だけでなく患者にも認知されるようになってきました。ほんの一握りの会社が製造していた四半世紀前とは異なり,今では多数の会社が多種多様の独自の製品を市場に出していますが,以前と比較して製品開発にかける時間が極端に短くなっていることを嘆いているのは筆者だけでしょうか。なぜ,ブローネマルク・システムが今日でもゴールド・スタンダードであると捉えられ,歯科インプラントがこれほどまでに周知されてきたかを考えるべきです。もし,治療法を確立することよりも会社の経営を最優先とするなら,短時間で開発し販売を目論んでいたかもしれません。しかし,インプラントの形態を含めたハードウエアと術式を中心としたソフトウエアを考慮し,動物実験まで実施した製品開発に20年以上の歳月をかけ,販売に至る姿勢があったことがその最たる理由です。また,どのようなインプラントの方法においても,術者の知識,技術さらには取り組む姿勢といったソフトウエアを礎とすることに相違はありません。しかし,「この方法では,そんな細かい注意は必要ありません」,「もっと気楽に考えてください。一般的な歯科治療と大差ありません」といった営業担当者の言葉に安易に従うことはないでしょうか。生体の仕組みについて時間をかけて学んできた医療人としての自負心を捨てることはぜひとも避けていただきたいのです。さらに,患者や歯科医師に味方するのではなく,業者の販売促進に加担するような講師の言葉には注意してください。つい先日の学会において,3iインプラントの表面性状の改良に携わっているトロント大学のデイビス教授が「インプラントの表面性状がどんなに改良されようとも,生体組織の仕組みが変わるわけではない」と述べられたことに深い感銘を受けました。
患者は必要以上の手術を望んでいるのか?
治療に着手する前に,患者が何を望み,何を避けたいのかを把握することは大切なことです。将来はさておき,現時点では硬組織あるいは軟組織の移植を避けたほうがよいと思われる多くの症例に出会います。無論,インプラントの埋入に耐え得る骨量に制約がある場合や理想的な審美性を獲得する場合に,骨移植が必要になることもありますが,工夫することで余計な材料を使用することや,他の部位から移植骨を採取することは避けることができます。遺憾なことですが,訓練を積んだ口腔外科医にとってはたいして難しい手技ではないとされる上顎洞底挙上術あるいはベニア・グラフトなどを「流行りだから」,「格好よさそうだから」と安易に手がけられて失敗した症例を目にします。25年も前に,ブローネマルク教授が「患者は君の実験動物ではないのだから,責任を持って治療に当たりなさい」と戒めてくださったことが思い出されます。もしもこのような手術を必要とする,あるいは興味があるならば,ぜひともその方法に熟達した人に手ほどきをしていただき,基本知識と手技を会得することをお勧めします。医療においては,器用だからといって学ばなくてもよいという姿勢は許されないことだと思っています。近年,グラフト・レスという言葉が語られるようになりましたが,口腔外科などにみられる外科教育を受けていない筆者の従来からの取り組みが,あながち間違った方向になかったことは大変光栄に思います。各種の診査法を有効に活用し,骨形成の方向を工夫することで,インプラントの埋入に適した骨を見つけられることもあります。最後に,自分の実力を周知させるために,患者が望んでもいない必要以上の手術を受けさせるように誘導していないか,考えてみてください。
自分が患者であったなら?
これまでにも述べたように,「もしも自分が,あるいは家族が患者であったならば,この治療法を選ぶか,この材料が使用されることを快しとするか,この治療環境で受診できるか」ということを念頭に置いて,診療に当たっていただくならば,患者の被害は少なくなります。患者はわれわれ歯科医師のソフトウエアを信頼して来院するのであって,冷やかしで訪れているのではありません。インプラント療法に限ったことではありませんが,何年経過しようとも問題が起こったときには,責任を取らなければならないことを考えると,事の重大さを思い知らされるでしょう。












