〔シカゴ〕シダース・サイナイ医療センター(ロサンゼルス)のAli Salim博士らは,血中エタノール陽性の中等度〜重度の頭部損傷患者では陰性の患者に比べ死亡リスクが低いとArchives of Surgery(2009; 144: 865-871)に発表した。米国では,毎年200万人が外傷性脳損傷を受け,そのうち5万6,000人が死亡しているという。
入院中の死亡率低い
飲酒はあらゆる外傷の危険因子とされており,外傷入院患者の半数近くが酩酊している。
Salim博士らは「このように,飲酒と外傷との間には密接な関連性があるにもかかわらず,エタノールが外傷性脳損傷に及ぼす病態生理についてはほとんどわかっていない」と指摘。「まだ研究による見解の一致は見られないものの,複数の動物実験でエタノールには神経保護作用のあることが示されている」と述べている。
今回の研究では2000〜05年に,同医療センターで入院時に血中エタノール濃度を測定した中等度〜重度の外傷性脳損傷患者3万8,019例のデータを解析した。
その結果,1万4,419例(38%)で血中エタノールが検出された。血中エタノール陽性患者では陰性患者に比べて,(1)若年(37.7歳対44.1歳)(2)傷害の重症度が低い(3)人工呼吸器の使用時間や集中治療室で過ごす時間が短い―などの傾向が認められた。
入院中の死亡率については血中エタノール陰性群の9.7%と比べ,陽性群では7.7%と低かった。同博士らは「血中エタノール陽性患者では死亡率が低下したが,合併症が多いことが死亡率低下の妨げとなっていた。このことは文献で一貫して報告されている。血中エタノールが脳傷害患者の死亡リスク低下とどのようにかかわっているのかについてはまだ明らかにされていない」と述べている。
低濃度で脳損傷の治療可能か
また,これまでに外傷性脳損傷を検討した動物実験が何件か行われており,傷害を負う前に低用量のエタノールを投与した群ではプラセボ対照群に比べ,(1)死亡率の低下(2)認知障害の減少(3)脳挫傷容積の減少(4)運動能力の改善―などが認められている。しかし,これらの有益な効果はエタノールが高用量になると明らかに低下するという。ただし,別の動物実験ではエタノールが生存率の低下と関連するという報告もなされている。
Salim博士らは「飲酒が社会に与える影響は,重要であることはこれまでも言及されてきた。したがって,われわれがアウトカムの指標として院内死亡率を検討したことは特筆すべき点である。交通事故による死亡の約40%はアルコールが原因で,飲酒運転により死亡リスクは明らかに上昇する」と述べている。
その一方で,「外傷を受ける前に飲酒をしていた患者では外傷性脳損傷による死亡リスクが低下しており,脳傷害を有する患者にエタノールを投与すれば,アウトカムが改善するという興味深い可能性が注目される」と考察している。
同博士らは「血中エタノールと脳損傷死亡リスクとの関係,治療にエタノールを適用する可能性を検証する研究を引き続き実施する必要がある」と結論している。
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[ 2009年12月17日号]
記事タイトル[掲載号]
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